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2021年4月 9日 (金)

二戸郡の南部椀

   二戸郡の漆器は来歴甚だ古く、約九百年前いまだ轆轤を用いざりし頃、既にその業在りしものの如し。旧記に高倉天皇の嘉応年間秀衡が平泉に無量光院を創建せし当時に其の産遠く京師に伝えて奥州秀衡椀等の名ありきと伝う。郡内浄法寺村の八葉山天台寺山中の衆坊が其の業を平泉に伝習して食器等を製造し、登山の参拝者に販売し相尋いで衣川の没落者が浅沢地方に来往しその業を伝え、漸次同業者を生じ製作品は之を浄法寺に掲げり。最れ
二戸郡漆器の創業時代にして今を距る七百数十年前のことに属す。

 後南部氏の治に入りて南部椀と呼び、其の模様あるものを南部模様と称え、天台寺の例大祭には境内二の丸は露店をなし販路漸く拡張せられ御山御器、浄法寺御器等の敬語さえ用いらるるに至れり。御山は天台寺所在の地なり。

 天正年間九戸政実征討の軍に参加し来れる蒲生氏郷が凱旋の切、漆工若干を伴いて其の製作を伝えしものを会津塗の祖となすとの説あり。

 承応明暦年代田山村に、寛文年間浄法寺村松岡に、御用木地師を置かる。松岡の木地師左衛門四郎の子孫荒沢村赤坂田に住し其業に関する故録記古証文等を蔵す。寛文より享保に至る七十年間に其の産額著しく高まり、寛延宝暦の頃に至つては福岡一戸方面の塗師職人を有せざる地方にも漆樹の栽植年々多きを加え、漆商競いて浄法寺市日に出でて当地方の漆器職人を迎えたり。而して一方是等の製品を売捌かんが為に浄法寺には伊勢屋、大和屋、浅沢には加賀屋、枡屋等の商人を生じ、盛岡には塗物問屋勝山長十郎あり、在方売買には鉈屋町武兵衛あり、各々資金を投じ南は盛岡仙台方面より東海岸に及び、北は三戸郡の櫛引八幡宮の祭日に販売し、西は秋田に移出し年々多額の生産あり、同業者は次第に殖えて、安比の流域を遡り、荒屋方面にも生じ更に山脈を横切って田山村にも生ずるに至り、却って浄法寺は日に月に其の数を減ずるに至れり。

 勢斯くの如きものあり、隋って工人互いに其利を争い、粗製濫造信を需要者失うものあり、加うるに宝暦天明の二大凶作に依って尠からざる打撃を蒙るりしも、寛政のの晩年より再び台頭し、文化文政の頃に至っては恢復全く成り隆運往時を凌ぐに至りき。斯くて徳川氏の晩年に至っては、現在の荒沢村漆器の産地となり、浄法寺は市場たるの観を呈するに至れり。

 維新後一時大に衰頽せるも、明治三十一年九月二戸郡漆器組合を設立し、木地の改良、下地の改良等に努る所あり、同四十三年四月、県、郡、村等の補助並びに有志の寄付金に依って荒沢村に蒔絵伝習所を設け、金沢より教師を招き数年間村内の子弟に髢漆及蒔絵の伝習を行い傍ら付属木地挽工場に於いて木地の改良研究を行い一時其の成績見る可きものありき。斯くの如きして笠井知事の時代には最も奨励に力を注ぎ年間数百円の補助金を支出し凡そ大正四五年の頃までは当局の奨励と当業者熱心によりて漸次進歩し来りたるも、次第に原料の不足、大量生産地の圧迫、其の他の原因により再び不振の状態に陥り、又爾来農家の副業として発達し来りたる関係上次第に粗製安価に隋し昔日の盛況を窺うことを得ざる迄に至れり。

 現在二戸郡漆器は荒沢村を主として浄法寺村、一戸町の三箇所に於いて年額八万円程の産額を有す。浄法寺村は荒屋新町、田山、小屋ノ畑、保戸坂、萩畑、赤坂田等の部落に製造家散在し年額約七万円位の製産を見る

 生産形態は純然たる家内工業又は農家の副業の形態にして、製品の殆ど全部は日用安物の椀なり。販路は附在方及び北海道方面にして月三回浄法寺村に於いて市を開き福岡町方面の仲買商人の手に買い取らるる状態なり。目下製品は極度に低下し椀の如き一個卸売七、八銭の程度ありと、其道奨励指導の施設として何等見る事えを得ず此の儘に推移せんかあたら古き伝統を有する浄法寺椀も此の儘次第に廃滅し終わらん、近時漆樹栽培の声大に宣しく県に於いても近く荒沢村付近い漆樹の栽培を計画しつつありと。

 以上の文献は出典を忘れましたが、昭和3年ごろの二戸郡漆芸の証言です。過去の文献をそのまま記述してあったり、微妙に訂正しなければならない部分がありますが、90年前の浄法寺漆の状況を伝える資料です。

https://airinjuku.jp/joboji/joboji-hidehira/rekishi-top.html

 

 

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